2022年のMotoGPにはヒーローが2人いた。前回の世界チャンピオン、モンスターエナジーヤマハのスターのファビオ・クアルタラロ(Fabio Quartararo)は、ドゥカティマシンの馬力不足もあったが、タイトル防衛に向けパフォーマンスの限界でレースをしていた。今期のレース第2フェーズは、フランチェスコ“ペッコ”バニャイア(Francesco “Pecco” Bagnaia)の話題で持ちきりだった。MotoGPのGOAT(Greatest of All Time=史上最高の人)バレンティーノ・ロッシ(Valentino Rossi)の弟子であり彼のVR46アカデミー出身のバニャイアは、計7回勝利、10回のポディウムを獲得して順位を上げた。クアルタラロが順位を落としたこともあり、2009年のザ・ドクター以来、バニャイアはイタリア人として初めてのチャンピオンになった。
レッド、ブルー。フランス人、イタリア人。スタイル、スピード…。2021年後半は、スペイン・バレンシアでの「#TheDecider」(プレス向け会見の生中継配信)まで、この最速ライダー2人のプレッシャーを掻き立てる決闘が繰り広げられた。
タイトルを賭けた対決の場は、秋の日差しが暑い満員のリカルド・トルモサーキット。バニャイアは2週間前にマレーシアで勝利を収めたが、クアルタラロはセパンでポディウムを獲得し、巻き返しへの可能性を残した。バニャイアが23ポイント差をつけており、クアルタラロの勝算は厳しいものだった(優勝には25ポイント必要だった)。クアルタラロはなんとしても最初にフラッグに到達しなければならず、バニャイアも優勝を確実にする必要があった。
そのプレッシャーは、27周の一騎打ちが終わるまで、スタジアムを包み込んだ花火の煙と同じくらい濃かった。クアルタラロとバニャイアが最初のラップでぶつかり合ったとき、緊張感は高いままだった。選手権をリードするバニャイアには、ドゥカティのエアロダイナミクスに損傷を与える接触もあった。
「その瞬間から悪夢が始まった。ラップの度に守りに入る必要があった」と彼は語った。
クアルタラロは磨耗したフロントタイヤをかばい4位フィニッシュ。「今日は悔いがなく、最後まで100%出しきった」とクアルタラロは述べた。バニャイアは守りに入り9位でフィニッシュし、歴史に残る記録を立てた。「ピットボードを見て世界チャンピオンになったことを確認した。すべてが軽くなった。すべてが素晴らしかった。感情的になったよ」とバニャイアは語った。
その後、注目の的となったバニャイアがMotoGPでの劇的な逆転について振り返る時間があった。シーズン中盤のドイツ戦後、クアルタラロとバニャイアには91ポイントの差がついていた。「あのレースの後、約1時間は自信を失っていた。わずかなチャンスしかないこともわかっていたが、今年、僕らが成し遂げた成績は信じられない内容となった。後半戦のパフォーマンスのすべてを解説しようとしたけど…あのレースの後からは信じられないほどの良い成績を残すことが出来た。このタイトルに相応しい内容だ」とバニャイアは語った。
クアルタラロは平静を保っていたが、チャンピオンの地位を譲ったわずか数時間後に、すでに新たな決意を見せていた。
「あのような形でタイトルを失ったからには、最終的に常にポジティブなことを見つける必要がある。たとえ今、99%ネガティブなことを考えているとしても、前向きな1%で最初のレースに向けて取り組む必要があって、ハードなトレーニング、万全な準備、そして2023年により懸命に戦うことへの渇望がさらに高まるはずだ」と彼は述べた。
今年のMotoGPは目まぐるしかった。この競技は、サスペンションスプリングよりもカーブが厳しい。グランプリは極限の中でくり広げられ、史上最も接戦だったフィニッシュのトップ10のうち6つが過去18か月以内に起こっている。ルーキーは輝き、ベテランは競争力を取り戻し、実力のある者だけがトップに上り詰める。
バレンシアがそのいい例だ。スズキはコンストラクターとしてMotoGPから撤退するかもしれないが、アレックス・リンス(Alex Rins)は、わずか0.3秒差で見事勝利した。今年の最高のレース(もしかしたらこの10年で最高のレース)となった数週間前のオーストラリアで、リンスは0.1秒の差で勝利した。リンス、ジョアン・ミル(Joan Mir)とスズキは2022年、より強大な力の犠牲者となったが、彼らには最も激しい勝負でさえも支配する力が残っていた。
今シーズン、マルコ・ベッツェッキ(Marco Bezzecchi)がムーニーVR46ドゥカティでポディウムフィニッシュ、そしてルーキー・オブ・ザ・イヤーによりMotoGPでの地位を固め、チームメイトのルカ・マリーニ(Luca Marini)は一貫してトップ10に入る成績を残した。カル・クラッチロー(Cal Crutchlow)は、終盤6戦のテストとレースで務めを果たし、ヤマハはコンストラクター順位で2位に滑り込んだ。ダリン・ビンダー(Darryn Binder)は、Moto3から直接プレミアクラスに跳躍することがどれだけ凄いことで難しいかを、国際的なバイクレースファンコミュニティに示した。
2023年シーズンはさらに多くのことが約束されている。導入が決定されている新しいスプリントレース形式。グランプリの暫定カレンダーでは3月から11月まで、アルゼンチンからオーストラリアで予定されている。タイヤを消耗させるパフォーマンスは更にエネルギーを倍増して戻ってくるだろう。